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3月から、4月にかけては、卒業式やら、転勤や、人事異動やら、出会いと別れの集中する時期です。大変慌しい時期ですが、この時期になると思い出す一つの出来事があります。
15年以上前、私が中学校の教師をしていた時の話です。5月の修学旅行の1週間ほど前だったと思います。
私はその日の朝、職員室で授業の準備をしていました。職員室のドアをノックする音がし、僕が「はい」と答えると、その向こうから保護者らしき方が「おはようございます」と力のない声が聞こえてきました。ドアを開けて、「どうかされましたか」と声をかけると、3年に在籍の息子さんが今朝早く心臓発作で、なくなったことを聞かされました。
その日、生徒指導担当であった自分は、全校生徒を集め、その事実を告げました。多くの生徒が涙し、N君の命を悼み、辛さを深くかみしめました。N君はもともと心臓が弱く、お医者さんからも心臓のことは心配と言われていました。それでも大変元気で生徒会にも立候補し、役員として活躍していました。
N君は※「花のボランティア」(花ボラ)の担当で前の年の暮れも、何日も遅くまで残って肥料を撒き、花の苗を学校のあちこちに植えました。その花の中に「ノースポール」という花がありました。ノースポールは「北極」という名前です。ちょっと寒そうな名前ですが、大変寒さにも強く、春先から初夏にかけて真っ白なかわいらしい花が咲きます。
葬式の日、誰からともなく「N君の棺おけにこの花を入れてあげようよ」という声がありました。みんなで玄関の前の花壇に咲いているちっちゃな白い花をつんで花束にしました。眠ったような顔のそばにいっぱい花を添え、お棺にふたをしました。一人ひとりの想いをこめて・・・
それから8ヶ月たち3月卒業式の日を迎えました。
私たちは、卒業式当日不思議な光景を目にしました。(いまでもあの光景が目に浮かぶのですが・・)
昨日までまったく気がつかなかったのに、卒業式を行う体育館の前の庭のあちこちで真っ白な白い花がいっせいに咲いているのです。
それがあの「ノースポール」でした。
きっと昨年植えた花の種があちこちに風で飛んで自然に育ったのでしょう。生徒の何人かが口々に叫びました。「S君が来たんだ」「S君がきたんだ」「一緒に卒業しよう」と。
今年も、あちこちで卒業式が行われます。卒業式になるといつもあの時のことを思い出します。卒業式に思い出の花は?と聞かれたら、私にとっては、大きな百合や、はなやかなバラでなく、校庭に咲くちいさな「ノースポール」と答えます。
※花ボラ 生徒会主催の「学校に花とみどりを植える自主的な活動(ボランティア)」
ノースポール(North Pole、学名:Leucanthemum paludosum Syn. Chrysanthemum paludosum)は、キク科 フランスギク属の半耐寒性多年草である。しかし、高温多湿に極端に弱いため、国内では一年草として扱われている。「ノースポール」はサカタのタネの商品名であるが、種苗登録などはされていないため、一般名として定着している。旧学名またはシノニムの「クリサンセマム・パルドーサム」と表記されることもある。]]>